こんにちは。ぶらす室長です。
The Vienna consensus とは?
ESHRE主催のもと、様々な国のART業界のプロフェッショナルが集まって、2日間ミーティングをした内容をまとめたものです。
参加した有識者の出身国は、スウェーデン、トルコ、イギリス、オーストリア、イタリア、スペイン、ベルギー、オーストラリア、アイルランド、カナダ、アメリカ、ノルウェーなどでした。
このミーティングの主な目的は、不妊クリニック(特に培養室)向けのKPIs (key performance indicators)を作ることでした。
KPIs とはカギとなる技術指針のことで、つまりは、培養室が維持し、目指すべき成績のことです。
Competence values と Benchmark values
Vienna consensusでは、キーポイントとなる培養室の成績を一覧化し、さらにcompetence values とbenchmark valuesという明確な数値を公開しました。それぞれの定義と意味は以下の通り。
Competence values (CV): すべての培養室が達成すべき数値、これ以下の成績はヤバイ
Benchmark values (BV):培養室が最善の操作をした時に達成する数値(目標とする数値)、これ以上の成績はすごい
不妊クリニックは、この2つの数字を使って培養成績のクオリティコントロールを行う。
例えば、受精率がCVまたはBVよりも下回った場合は、培養室のなにかしらの異常を疑う。
(機器の故障、培養士、症例、その他別の要因など)
ちなみに、このような明確な数値を掲げてガイドラインを作成しているのはESHREだけです。ASRMやCDC(アメリカの関連組織)でも作成されていませんし、もちろん日本にもありません。
不妊クリニックが維持、目指すべき治療成績とは?(KPIs)
Vienna consensusが設定したKPIsは、
ICSIダメージ率、ICSI正常受精率、IVF正常受精率、受精失敗率、分割率、Day2 胚発育率、Day 3胚発育率、胚盤胞発生率、バイオプシー成功率、胚盤胞凍結融解後生存率、着床率 (分割期)、着床率 (胚盤胞期)の12項目です。
英語で分かりづらい方は日本語に治したものをご参照ください。↓↓
全て重要なんですが、個人的に特に重要そうだと思うものを赤字にしました。
それぞれの算出方法なども記載されています。
では、個々の成績について見ていきましょう。
体外受精の適正な正常受精率
ICSIの正常受精率の適正値は
CV: 65%以上 BV: 80%以上
IVFの正常受精率の適正値は
CV: 60%以上 BV:75%以上
個人的には、ちょっとこの数字は甘い気がします。なぜなら、この計算方法では2PBも含まれているからです。タイムラプスインキュベーターが主流となりつつある日本では、前核の見落としがほとんど起こり得なくなっているので、2PNだけでこの数字が達成できると思います。
また、ICSIの正常受精率は、年齢との相関性が低いので、ICSIの正常受精率が65%以下のクリニックはおすすめできません。
胚の適正な分割率、Day2 胚発育率、Day 3 胚発育率
受精した胚の分割率の適正値は
CV: 95%以上 BV: 99%以上
受精した胚のDay2発育率(4細胞期胚になっている数)の適正値は
CV: 50%以上 BV:80%以上
受精した胚のDay3発育率(8細胞期胚になっている数)の適正値は
CV: 45%以上 BV:70%以上
受精した胚のほとんどは、分割します。
そのため、分割率のCV、BV共に妥当な数字かと思います。
Day 2、Day 3の胚発育率ですが、
これはどのタイミングで観察するかも考慮すべきですね。
朝は6cellだったけど、夕方には8cellになっていることなどは良くあります。
タイムラプスであればいつでも観察可能ですが、ノーマルインキュベーターでは難しいです。
また、フラグメントの量などを加味したグレーディングについては項目がありません。
おそらく、クリニック間でのバラツキが大きいからだと思います。
胚の適正な胚盤胞発生率、凍結融解後生存率
胚盤胞発生率の適正値は
CV: 40%以上 BV: 60%以上
凍結融解後の胚盤胞生存率の適正値は
CV: 90%以上 BV:99%以上
胚盤胞発生率は不妊クリニックのクオリティを測る上で最も重要な指標であると思います。
CV、BV共に妥当な数字かと思います。40%を下回るのはかなりまずいですし、60%を超える場合はかなり成績が良いと思います。ただし、胚盤胞発生率は患者年齢の影響を受けやすいので、解釈には注意が必要です。
凍結融解後の生存率ですが、凍結融解した胚盤胞は、稀に変性してしまう事があります。
現在は、ガラス化凍結法が主流ですので、このCV、BV共に妥当な数字かと思います。変性率は5%未満が望ましいですね。
胚移植後の適正な着床率
分割期胚移植の着床率の適正値は
CV: 25%以上 BV: 35%以上
胚盤胞期胚移植の着床率の適正値は
CV: 35%以上 BV:60%以上
胚移植後の着床率は、臨床妊娠率と異なり、何個移植したかも関与します。2個移植して、胎嚢が1個なら、着床率は50%です。
分割期胚移植の着床率は妥当かと思います。分割期胚移植では新鮮と凍結融解でそこまで差はありませんので。
一方で、胚盤胞期胚移植の着床率は新鮮か凍結融解かによっても違いますので注意が必要です。
CVとBVの差が、やけに大きいのはそのためかと思います。
CVの35%は、新鮮だろうと融解だろうと達成すべき!との意図が読み取れます。
BVの60%はそこそこハードルが高いと個人的には思います。
まとめ
不妊クリニックが独自にHPなどでデータを開示している時は、これらの数値を参考にされると良いと思います。特に、CVを達成していないようなクリニックは避けた方が無難でしょう。
反対に、「胚移植後の妊娠率80%!」などと書いているクリニックも避けましょう。
BVからかけ離れたような数字を出しているクリニックは
・ データを故意に改変しているか
・ データ解析の仕方がわからないか
のどちらかです。
残念ながら日本にはこのようなガイドラインはありません。
今後、このようなクオリティコントロールのための指標を作って頂ける事を願っています。
最後までご覧頂きありがとうございました。
少しでもご参考になれば幸いです。
Human Reproduction Open, Volume 2017, Issue 2, 2017
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