【論文レビュー】1PN由来胚の移植後の臨床成績と胎児への影響
こんにちは! 胚培養士のぶらす室長です。
採卵後の受精報告の際に医師から
受精した中に1PNの胚がありましたよ。
正常受精しているかどうかわからないけど、移植できる可能性もあるから
大丈夫。大丈夫。
こんなことを言われた事がある方がいるかもしれません。
(こんな雑な説明はされてないと思いますが・・)
そこで、今回は
この問題について探っていきたいと思います。
1PN胚とは?
卵子は受精すると前核期というステージに移行します。
このステージでは、精子由来と卵子由来の前核がそれぞれ1つずつ現れ、合計2つの前核が観察されます(雌雄前核といいます)。
この、2つの前核を観察することで「正常に受精した」と判定します。
1PN胚とは、受精確認時に前核 (pro-nuclear:PN)が1個のみであった胚のことを言います。
1PN胚は受精しているのか?
1PN胚は、正常に受精したかどうかわからない胚とされています。
考えられる1PN胚の受精状況は
・ 正常(精子、卵子由来の核)
・ 単為発生(精子、卵子由来の核のどちらかのみ)
・ 多倍体 (精子、卵子由来の核に加えて、さらにもう1つ以上の精子または卵子由来の核)
この3パターンが考えられます。大きさなどである程度予測できるという報告もありますが、見た目で判定することは困難です。
どんな研究?
2PN分割期胚 696
1PN胚盤胞胚 133
2PN胚盤胞胚 502 でした。
結果① 〜分割期胚移植における1PNと2PNの比較〜
結果② 〜胚盤胞移植における1PNと2PNの比較〜
・ 1PNと2PN由来の間で、臨床成績に有意な差はなかった
→ 胚盤胞移植では、1PNと2PN由来の臨床成績は変わらない
結果③ 〜1PNと2PN由来胎児の先天性奇形および発達障害の発生率の比較〜
・ 何らかの先天性奇形が発生した割合は
1PNで 3.9% (3/76)
2PNで 1.5% (5/334)
・ 言語障害を持った児の割合は
1PNで 1.3% (1/76)
2PNで 1.5% ( 5/334)
・ 運動能力障害を持った児の割合は
1PNで 1.3% (1/76)
2PNで 0% ( 0/334)
いずれも有意な差はなかった
→ 1PN由来胚で産まれた児に、先天性異常や発達障害の発生率が上昇することはない傾向が見られた
まとめと結論
ぶらす室長の考察
この論文の良いところ
・ 分割期胚移植と胚盤胞移植の比較がある
・ 先天性奇形や発達障害についてのフォローアップ(追跡調査)が行われている
この論文のイマイチなところ
・ 対象がIVF由来胚のみ
・ 胞状奇胎などの異常妊娠のリスクについて触れていない
ここまで症例数が多く、フォローアップを行っている報告は珍しいので非常に参考になる論文であると思います。
昔から言われていた通り、「胚盤胞まで発育すれば正常であった可能性が高い」というのは的を得ていたようですね。
一方で、媒精方法の違いも1PN由来胚の臨床成績に影響するという報告がありますが、今回はIVF由来胚のみの検討でした。媒精方法の違いの影響については、今後他の論文でレビューしたいと思います。
私が一番気になったのは、「異常妊娠のリスクに触れていない」ところです。
1PN由来胚には3倍体の可能性が否定できないため「胞状奇胎」などのリスクは避けては通れません。
胞状奇胎は、悪化すると流産の方がまだマシと言えるほど最悪な状況になります。
他の論文では必ず言及がありますので、このリスクを話さずに「問題なく使えるよ」というのは少し乱暴な気がします。
異常妊娠の頻度は稀ですが、リスクを理解した上で1PN胚の移植に望む必要があると思います。
最後までご覧頂きありがとうございました。
少しでもお力になれれば幸いです。
引用文献はこちら↓↓
Si J, Zhu X, Lyu Q, Kuang Y. Fertil Steril. 2019 Sep;112(3):527-533.
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