【不妊治療】胚培養士への質問回答まとめ 精子・男性因子編

質問の紹介と回答
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本ページでは不妊治療患者様からTwitter上で頂いたご質問とそれに対する胚培養士の回答をご紹介します(一部改変しています)
あくまでも、胚培養士の1意見としてご参考ください。実際の治療の際には、患者様の背景などにより異なりますので主治医の診断に従ってください。

一般的な精子調整方法について

 

質問者さん
質問者さん

精子調整についてお聞きしたいです。

精子調整後は精子の総数、濃度、運動率、運動精子数などにどのような変化が起きるのが一般的でしょうか?

今回、調整後の運動率が調整前よりも低下しました。

 

ぶらす室長
ぶらす室長

精子調整には主に3つの目的があります。

精漿除去、精子濃縮、精子選別です。

精漿(せいしょう)とは、精液の精子以外の液体部分です。

ぶらす室長
ぶらす室長

方法にもいくつかあり、

代表的なのは洗浄濃縮法、密度勾配遠心法、スイムアップ法などです。

洗浄濃縮法

遠心分離によって精子のみを沈下させ、上澄の精漿を培養液と入れ替える方法です。
精漿除去と精子濃縮が期待できます。通常は精子の濃度が増加しますが、運動率が低下します。総数はほぼ変わりません。

密度勾配遠心法

成熟精子の頭部の比重が高いことを利用して、成熟精子のみが通過できるフィルターのような高密度の液体を通過させて精子を回収します。精漿除去と精子濃縮、精子選別が期待できます
一般的に不動精子、比重の低い精子は通過できず、良好な運動精子のみが回収できるので、運動率が増加し、精液量が多い場合は濃度も増加します。総数は減少します。
稀に、頭部の小さい不動精子や尾部のない精子が回収されてしまうこともあるので運動率が低下してしまうこともあります。

スイムアップ法

洗浄濃縮法で濃縮した精子の中から、培養液の中を泳いで来た精子のみを回収して集める方法です。精漿除去と精子選別が期待できます。運動精子のみが回収できますが、一般的に濃度は低下し、運動率が著しく増加します。

 

ぶらす室長
ぶらす室長

一般的に、洗浄濃縮法は運動率や濃度の低い原精液に実施し

密度勾配法やスイムアップ法は運動率の高い原精液に実施します

精液の状態に問題がなければ調整によって数値は向上しますが、ギリギリの所見の場合などは、調整によって数値が低下してしまうこともあります。

精索静脈瘤の治療とサプリメントについて

 

質問者さん
質問者さん

男性不妊について質問です。

初回の精液検査で原精液濃度が3000万/mL、運動率が80%でしたが、その後の数値が非常に悪く、男性不妊外来を進められました。

その結果、精索静脈瘤と診断され、2ヶ月のサプリメントを服用して様子をみましょうと言われました

2ヶ月のサプリメント服用で回復しなければ手術をすると言われたのですが、サプリメントに意味はあるのでしょうか?

 

ぶらす室長
ぶらす室長

軽度の精索静脈瘤であれば、コエンザイムQ10のような抗酸化サプリメントの服用で精子の状態が回復するという報告があります。報告では、サプリメント服用の効果は3ヶ月後から現れると言われているため、2ヶ月で判断されるのは早いかもしれません。

 

また、精索静脈瘤の手術により精子の状態が改善するという報告がありますが、術後と術前で、人工受精の成績は向上しないという報告が多い印象です。

 

ただ、手術後直ちに採卵にステップアップすべきかは医師やご夫婦でご相談ください。体外受精の費用は人工授精よりも圧倒的に高額ですので術後に何度か人工授精をトライしてみるのもありかと思います。

奇形精子症でも人工授精(AIH)は有効か?

 

質問者さん
質問者さん

精子の正常形態率と奇形精子症について教えてください。

先日、精液検査で以下の結果となり、自然妊娠・AIH共に可能と診断されました。

 

精液量       1.8 mL

総精子濃度 7800万/mL

運動率       65%

正常形態率 1.5%

 

正常形態率だけで見ると異常ありだが、濃度、運動率などを鑑みて「特段の異常はなし」と判断されました。

ネットなどで、正常形態率が4%未満は奇形精子症だと述べられているサイトが多く不安です。

1.5%しか正常精子がなくとも、本当にAIHは有効なのでしょうか?

 

ぶらす室長
ぶらす室長

結論から言いますと、

AIHを実施する価値はある精液所見ではないかと思います。

 

ご存知のように、WHOの基準値で、正常形態率が4%未満は奇形精子症と判定されます。

奇形精子症とAIHの妊娠率の関係性についてはいくつか報告があり、正常形態率が4%〜5%未満で妊娠率が低下するという報告が多いです。

一方で、奇形精子症は他のパラメーター(濃度や運動率など)の異常も同時に起きていることがほとんどで、ご質問者様のように「正常形態率のみ異常がある」という患者様は少ない印象です。

 

また、精子の奇形率(正常形態率)の測定は濃度や運動率の測定よりもはるかに難しく、多くのクリニックでは培養士が顕微鏡で観察し、見た目で判断しています。

 

そのため、クリニックや培養士の熟練度などによって結果にバラつきが出てしまいます。 クルーガーテストなどで検査しているクリニックであれば、正常形態率はある程度信用に足るものと考えて良いですが、染色が必要なので実施していないクリニックも多いです。

 

精子調整処理によって、受精能力の高い精子がある程度選別されますので、調整後の所見が問題なければ、4〜5回ほどのAIHを実施しても良いかと思います。心配であれば、精液検査を複数回実施したり、フーナーテストなどを実施して受精能力を評価するのも良いかと思います。

凍結融解精子を使用したAIHや体外受精は可能?

 

質問者さん
質問者さん

夫の転勤が決まり、単身赴任するか、私が退職して帯同するか悩んでいます。

現在AIHの段階ですが、やはり凍結精子でのAIHはあまり期待できないでしょうか?

元々、夫の精子は奇形率が高くあまり所見が良いわけではありません。

また、体外受精にステップアップも視野に入れていますが、夫はあまり顕微授精に乗り気ではありません。顕微授精を行わない場合、単身赴任での治療はかなり難しいでしょうか?

 

ぶらす室長
ぶらす室長

凍結精子の技術は、あまり進歩しておらず、融解後に運動精子率がおよそ半分くらいになってしまうことが多いです。

 

凍結融解精子を使ったAIHや体外受精も可能ですが、元々の精子所見がかなり良好でないと難しいかもしれません。

私の個人的な目安で申し訳ないのですが

 

液量 1.0 mL 以上

濃度 1億5000万/mL 以上

運動率 50% 以上

 

最低でもこのくらいの精液所見でないと、融解後に調整しても妊娠が期待できるほどの運動精子を回収できない可能性が高いです。

 

体外受精であれば、精子所見によりますが運動精子濃度を濃縮(液量をかなり少なくする)し、媒精するドロップを小さくすれば可能かと思いますが、実施できるクリニックがどのくらいあるかはわかりません。

 

単身赴任で、体外受精による媒精をご希望の場合は、

 

・ ご主人に採卵日のみ帰ってきてもらう

・ 凍結精子をたくさんストックして、たくさん融解して使用する

・ 媒精方法を工夫できるクリニックを選ぶ

 

というのが考えられる方法かなと思います。

顕微授精にしてしまうのが最も簡単ですが、本来であれば必要のない技術を実施したくないという気持ちは当然かと思います。

終わりに

 

ぶらす室長
ぶらす室長

精液所見や男性因子に不安がある場合は

泌尿器科の医師に診察してもらうことが最大の近道だと思います。

無精子症や精索静脈瘤などの疑いがある場合は特にです。

最近では、不妊クリニックに泌尿器科医師が外来で出入りしているので、クリニックに問い合わせてみましょう。

ぶらす室長
ぶらす室長

たくさんのご質問ありがとうございました。ご参考になれば幸いです。無事に妊娠出産に至ることをお祈りしています。

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